home

目次戻り  

風に吹かれて(10-3)      白井啓治  (2010.3)

    

 『蕗の薹をきざみ 味噌汁に春の声』

 

 今年は、正月早々から庭に蕗の薹が顔を出し、味噌汁に刻み込んだり、蕗味噌で熱々ご飯を頬張ったりして春の声を充分に褒めたのであった。ところが二月に入った途端、風邪をひき、身体は寝込むほどではなかったが考える気力の方が寝込んでしまった。これ程はっきりと風邪を自覚したのは十年ぶりぐらいである。

 昨年までは、偶数月にことば座の定期公演を行っていたので、風邪などひく間もなかったのであるが、人間、暇が出来ると心身が鈍り、直ぐにウイルス等の外敵の餌食になる様である。

風邪をひいて知ったのであるが、風邪をひくとインスリン注射、血糖値を下げる薬などが効かなくなるそうで、朝起きたときの血糖値が連日180達し、これはいよいよ合併症を心配しなければならないのかと覚悟を促されてしまった。

 定期検査で、風邪をひくと血糖値が上がる話を聞かされ、更にヘモグロビンA1cの値がいつも通りであったので取敢えずは安心したのであったが、一度気力を寝込ませると、思考がシャキッとしてこない。三月の末までには、六月公演の台本を書き上げなければならない。そのためのハンティングに村上山(龍神山)に登ってこなければならないのだが、こんな調子では、一昨年、馬滝に取材で登って倒れたと同じようなことを起こしかねないので、なかなか腰が上がらない。天気が悪いのを幸いにして、ぐずぐずしている。

 先月号に少し紹介したが、霞ヶ浦を囲む住人による一万人鎖朗読会のための企画書も手につかず、つい二、三日前に、何とか書き上げ関係者の方達にやっと送った。ほっとする間もなく、この会報の編集をやっている。

 まだ何か忘れているようなのだが、それが何か思い出せない。これはいよいよ老人性記憶障害が来たのかと落ち込んでしまった。よく考えたら、介護保険料が自動的に年金から引き落とされるようになったのだから、そろそろ記憶障害が来るぞと言われている様なものだ。糞ったれ! と声にした途端詰まっていた記憶が流れ出し、やらねばならないのが税の申告であった。

 何てこった、二月の公演がなくなったからといってのんきに身心を鈍らせている暇なんて本当はなかったのだ。隠居爺さんの様な暮らしの癖に、何と忙しいことか。死んだらゆっくり寝られるさ、と嘯いていた罰なのかな、これは。